• 検索結果がありません。

心理学ワールド 79号 小特集 私たちは言葉を学ぶように 音楽も学ぶ 松永 理恵(神奈川大学) | 日本心理学会

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "心理学ワールド 79号 小特集 私たちは言葉を学ぶように 音楽も学ぶ 松永 理恵(神奈川大学) | 日本心理学会"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

23 小特集 音 楽 下,調性スキーマと呼ぶ)に焦点 を当て,その学習過程の最も基礎 的な部分を,専門的な音楽教育訓 練,文化,発達の3つの観点から 考えてみたい。 専門的な音楽教育訓練  調性スキーマは,音楽の専門的 な訓練を受けた聞き手(音楽家) と受けていない聞き手(素人)の 間で本質的に違うのだろうか。こ の疑問を検討するためには,音楽 家と素人に同じ音列を聞かせ,彼 らの知覚した調性が同じか違うか を比較すれば良い。だが,このこ とを実験的に検討するのは難し い。なぜならば,音楽家しか自分 の知覚した調性を言葉で説明でき ないためである。そこで,素人の 調性知覚をも測定できるように開 発されたのが,終止音導出法(阿 部,1987)である。これは,経験 的に知られていた「音列の最後の 位置に自分の知覚している調性の 中心的な音が出現すると,聞き手 はまとまりの良く終わった感じが する」という現象を利用した方法 であり,具体的には,音列を呈示 した後,実験参加者にピアノの鍵 盤を使用して終止音を産出させ る。この方法を使って,松永・阿 部(2005)は,音楽家と素人に同 じ音列群を聞かせ,両群から終止 音反応を得たところ,その反応パ ターンは両群の間で似通ってい た。このことは,音楽家と素人が 基本的には同じ調性を知覚してい たことを意味する。このことか ら,調性スキーマは,音楽家と素 人の間に本質的な違いはないこ と,専門的な教育訓練を受けるこ とで初めて学習される特別なスキ ルではないことが分かる。 文 化  言語と同じく,音楽の音階も文 化によって異なる。この違いは聞 き手の調性知覚に差異をもたらす のだろうか。例えば,音楽文化が 異なる米国人,日本人,インドネ シア人がいて,彼らにある音列を 呈示した時,彼らは同じ調性を知 覚するだろうか,それとも,異な る調性を知覚するだろうか。もし 世間一般の「音楽は国境を越えて 理解できる」という考えが正しけ れば,文化が違っても,聞き手の 知覚する調性は同じになるはずで ある。では,実際はどうなのだろ うか。  このことを多角的に調べた研究 を紹介しよう。米国においては, 西洋音楽が広く行き渡っている。 現代日本も米国と同じく西洋音楽 文化圏に含まれるが,西洋音楽と ともに日本伝統音楽も存在する。 中国,ベトナム,インドネシアで は,それぞれに固有の伝統音楽が 存 在 す る。 松 永 ら(2017a) は, このように音楽文化の異なる米国 人,日本人,中国人,ベトナム 人,インドネシア人に,同じ音列  言語理解には言語に関する知識 が必要であるのと同じく,「音の 並びを音楽的存在(メロディ)と して理解する」には音楽に関する 知識が必要である(阿部, 1987)。 では,私たちは音楽の知識をどの ように学習するのだろうか。  この疑問に答える前に,比較と して,人間が言語をどのように学 習するのかを考えてみよう。普通 の人でも,自分の体験を慎重に振 り返っていくことで,人は育つ環 境の中で使われる言語を聞くうち に自然とその言語の知識を身につ けていく,ことに気づくであろ う。では,音楽の学習はどうだろ うか。結論を先に言うと,音楽の 学習の最も基礎的な部分は言語の それと同様である。すなわち,人 は育つ文化環境の中で使われる音 楽を聞くうちに自然とその文化の 音楽の知識を身につけていく。だ が,言語と異なり,普通の人はこ のことを体験的に理解し難い。そ のためか,世間一般には(ときに は他領域の心理学者でさえも), 「音楽は専門家でなければ理解で きない」,「音楽は国境を越えて理 解できる」という思い込みが広く 行き渡っている。  さて,この時点に至るまで,ご く大雑把に音楽の知識と述べてき たが,それは拍節の知識と調性の 知識に分けられる(阿部, 1987)。 本稿では,後者の調性の知識(以

私たちは言葉を学ぶように

音楽も学ぶ

神奈川大学人間科学部人間科学科准教授

松永理恵

(まつなが りえ) Profile─松永理恵 北海道大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。静岡理工 科大学専任講師などを経て,2017年より現職。専門は音楽の認知科学。著書は『基 礎心理学入門』(分担執筆,培風館)など。

(2)

24 ころ,西洋音楽文化圏に育つ北 米の子どもが調性スキーマのどの 特徴をどの順に学習していくのか という現象と,その現象は音高の 統計学習能力に依存する部分が大 きい,ということが明らかになっ ている程度である(学習現象をシ ミュレートできる計算モデルとし ては,松永ら,2015)。調性スキー マは文化に大きく規定される。な らば,その学習の仕組みの理解に は,文化普遍的な側面と文化特異 的な側面を区別した説明が望まれ る。それを目指す取り組みの一つ として,現在,日本人の子どもが どのようにして西洋音楽と日本伝 統音楽というバイミュージカルな スキーマを学習していくのか,に ついての研究が進められている (松永ら, 2017b)。 文 献 阿部純一(1987)「旋律はいかに処 理されるか」波多野誼余夫(編) 『音楽と認知』東京大学出版会  pp.41-68.

Matsunaga, R. & Abe, J.(2005) Music Perception, 23, 153-164. Matsunaga, R., Hartono, P. & Abe,

J.(2015)Frontiers in Psychology, 6, 1348. 松永理恵・Pitoyo Hartono・横澤宏 一・阿部純一(2017b)「日本音楽 知覚認知学会平成29年度春季研究 発表会資料」35-39.

Matsunaga, R., Yasuda, T., Johnson-Motoyama, M., Hartono, P., Yokosawa, K. & Abe, J.(2017a) Proceedings of APSCOM 6. Matsunaga, R., Yokosawa, K. & Abe,

J.(2012)Neuropsychologia, 50, 3218-3277.

Matsunaga, R., Yokosawa, K. & Abe, J.(2014)Neuropsychologia, 54, 1-10. を聞かせ,終止音導出法の変形版 を用いることで,彼らから調性知 覚反応を得た。図1は,各文化群 の間の「個々の音列に対する調性 反応」の類似度を算出し,その類 似度に対して多次元尺度構成法を 施すことで得たマップである。似 通った調性反応を示した文化群 は,マップ上では近くに配置され る。  最初に,西洋音楽の音列に対 する結果を見てみよう(図1左)。 マップ上において日本人と米国人 の距離は非常に近いが,残り三つ の文化群の間の距離は遠い。こ のことは,西洋的な音列に対し て,日本人と米国人は似通った調 性を知覚したが,残り三群は他の 群とは異なる調性を知覚したこと を意味する。日本人と米国人の反 応の類似性は,彼らが共に,西洋 音楽の調性スキーマを有してい るという別の研究知見と一致す る。次に,日本伝統音楽の音列 に対する結果を見てみよう(図1 右)。マップ上において,各群間 の距離は互いに遠い。別の研究結 果から,日本人は,西洋音楽の調 性スキーマと共に,日本伝統音楽 の調性スキーマも有していること が確認されている(日本人のバイ ミュージカル脳については,松永 ら, 2012, 2014が詳しい)。これを 踏まえると,日本音列に対して, 日本人は日本的な調性を知覚した が,それ以外の文化群は日本人と は異なり,独自の調性を知覚した と推測される。  松永ら(2017a)の結果は,同 じ音列を聞いても,文化が違え ば,聞き手の知覚する調性は異な ることを明確に示す。このことか ら,聞き手は自身の文化に固有の 調性スキーマのもとに調性処理を 行っていると推測される。調性ス キーマは,メロディ認識の一大基 盤である。そこに文化差があると いうことは,どのような音列をメ ロディとして認識するのか,とい う側面にも当然,文化差がある。  専門的な音楽教育訓練の有無に よって,学習される調性スキーマ の本質が違ってくるわけではな い。調性スキーマの本質に大きな 違いをもたらすのは,文化という 単位である。要するに,人は,言 語と同じように,取り巻く文化的 環境の中でたくさんの音楽を浴び ることで自然に文化特有の調性ス キーマを身につけていく,という ことである。 発 達  調性スキーマの学習過程により 迫っていきたいところだが,残 念なことに,これ以上のことは あまりわかっていない。現在のと 図 1 米国人,日本人,中国人,ベトナム人,インドネシア人の間の「個々 の音列に対する調性知覚反応の類似性」を算出し,その類似性に対して 多次元尺度構成法を施して得たマップ。左は西洋音楽を聴いた時の結果, 右は日本伝統音楽を聴いた時の結果(松永ら,2017a より修正の上,引 用)。

参照

関連したドキュメント

「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー

特に, “宇宙際 Teichm¨ uller 理論において遠 アーベル幾何学がどのような形で用いられるか ”, “ ある Diophantus 幾何学的帰結を得る

 体育授業では,その球技特性からも,実践者である学生の反応が①「興味をもち,積極

専門は社会地理学。都市の多様性に関心 があり、阪神間をフィールドに、海外や国内の

Photo Library キャンパスの夏 ひと 人 ひと 私たちの先生 文学部  米山直樹ゼミ SKY SEMINAR 文学部総合心理科学科教授・博士(心理学). 中島定彦

『いくさと愛と』(監修,東京新聞出版局, 1997 年),『木更津の女たち』(共

社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課

図および図は本学で運用中の LMS「LUNA」に iPad 版からアクセスしたものである。こ こで示した図からわかるように iPad 版から LUNA にアクセスした画面の「見た目」や使い勝手